全館空調の種類と仕組み

最近、NETや家の広告などでよく耳にするのが「全館空調」という言葉です。

全館空調とは家を全体で空調して家中どこにいても24時間ほぼ一定の温度にするシステムです。一言に全館空調と言っても各メーカーそれぞれの仕組みがあります。今回はその仕組みとメリット・デメリット、採用する際の注意点などについて分かりやすく解説していきます。

全館空調で家づくりを考える仲良し家族

全館空調と間欠空調

これまでのほとんどの日本の住宅は、細かく仕切られていて、家の断熱性能が悪く、特定の部屋だけを暖房して、他の部屋は寒いままが当たり前になっていました。さらに、家を留守にするときは空調を消して出かけます。戻ってくるとあわててエアコンをつけてひたすら効くのを待ちます。これを「間欠空調」といいます。

実は日本では、「間欠空調」の住宅が多いことにより、先進国の中でも稀にみる冬場のヒートショックによる死亡事故が多い国となっています。

一方、欧米諸国の住宅は部屋ごとに間仕切られることが少なく、家全体で空調する「全館冷暖房」で行われることがほとんどです。これにより、家の中のどこでもほぼ一定の温度で快適な生活を送ることができます。

全館空調は、高気密・高断熱が必須

先ほども述べましたように、日本のほとんどの住宅が「全館空調」に適さない理由の一つは、住宅の性能(断熱、気密性能)が低いことが挙げられます。断熱、気密性能が低い住宅の場合、家全体を空調しようとすると、効率が悪く光熱費が高くついてしまいます。断熱性能の高い住宅ならば、全館冷暖房によって家の中の温度が一旦一定になってしまえば、その後は大きなエネルギーをかけることなく温度をコントロールし続けることができます。逆に、「必要な時だけつける」という動かし方ではなく「常に連続稼働させておく」ほうが、結果的に光熱費を押さえられ、省エネにつながることにもなります。

非暖房室の結露

個別暖房で暖房している部屋の水蒸気が冷えた非暖房室に流れれば、結露の危険が生じます。最も冷えた部分に集中して結露しますから、まず最初に結露するのは窓ガラスです。暖房している部屋のガラスは結露しないので安心していると、北側の部屋やトイレの窓ガラスが激しく結露していたりするのです。暖房している部屋のガラスが結露しないのは熱が回っていてガラスも温められているからです。ところが暖房を止めてしまうと部屋も冷えてきます。すると暖房している間は結露しなかったガラスも激しく結露を始めます。結露を放置しておくと、カビや腐朽菌が発生し、私たちの吸う空気を汚染したり、家を支える木材を腐らせたりします。このことからも断熱性能の低い家の間欠空調は、住み心地、快適性、のみならず、省エネ、結露、ひいては住む人の健康や家の耐久性にもかかわってくることがわかります。

館空調の種類と特徴

一口に全館空調といっても、各社いろいろな仕組みを使っていますが、大きく3つの種類に分けられます。

ここでは、その方法と特徴について紹介します。

1. ダクトによる全館空調

全館空調のイメージイラスト

一般的にハウスメーカーが全館空調と呼んでいるのがこの方法です。小屋裏などの空調機から各室の天井の吹き出し口にダクトを使って冷暖気を送る方法で、空調機からダクトでつなぎ、全室に配管していきます。

ダクトを通して各部屋へ冷暖房を届けられるため、天井裏など配管されたダクトの点検、清掃を行おうとすると、天井や壁をはがしてしまうことにもなりかねません。冬場温度の低い天井裏にあるダクトは結露の原因になり、いくらフィルターで除去しても内部でカビやほこりが発生し汚染物質の温床になります。この汚れが各部屋に吹き出し口から送り込まれてきますので、室内がカビ臭いという声も聞きます。

また、費用は各メーカーによってまちまちですが、空調機やダクト代、工事費などで別途100万~300万円かかります。

2. 小屋裏冷房と床下暖房よる全館空調

全館空調の空気の流れのイラスト

小屋裏と床下に空調機を設置し、夏は小屋裏から冷気を下ろし、冬は床下から暖気を送る方法です。天井や床にスノコやガラリなどを通して冷暖気を通します。

床下から暖かい空気が出るため、冬は足元が床暖がなくても暖かく裸足でも生活できるのが特徴です。

費用はこれも各メーカーまちまちですが、床下専用の換気装置を採用したり、ガラリなどの設置費用をみても100万円以下とダクト式に比べ安価に納まりそうです。

ただし、床下エアコンを採用する場合は床下のコンクリートが冷えないように、基礎断熱が絶対条件になります。できれば基礎外断熱がベストです。

また、冬床下のエアコン1台で2階の北側の部屋まで暖かくなるか?小屋裏のエアコン1台で1階のリビングまで行き渡るかどうか疑問視されます。

床下エアコンについては、弊社のブログでたびたび述べてきましたように、床下には基礎のコンクリートから放出される発がん物質であるラドンが充満しており、室内に送り込まれることになり、健康障害を招く可能性があります。健康に暮らすための全館空調が健康障害の原因になれば、本末顚倒になりかねません。

3. 断熱高気密化による全館空調

吹き抜けのある全館空調

高断熱高気密の家では、基本的にワンフロアに1台、あるいは吹抜などを上手に利用できれば、一家に1台のエアコンで冷暖房を賄うことができます。

そのため、全館空調が少ないエネルギーで家中温度を一定に保つという意味であれば、断熱、気密性能を高め1~2台のエアコンで室温をコントロールするこの方法も全館空調と呼べるでしょう。この方法は、特殊な空調機やダクトを使ったり、小屋裏や床下に空調機を設置したりする特別な工事が不要になり、1台~2台の普通の家庭用エアコンで対応できるため、コスト面の負担を大幅に減らせるのがポイントです。エアコンは各居室に設置するのではなく、吹抜けや階段室、ホールなど共用部分に設置し、ドアの上に開口などを空け冷暖房が行き渡るようにすればベストです。ただし、気密、断熱施工がきちんとなされている家でなければ効果は発揮しません。

館空調のメリット

全館空調のメリットは何度も述べてきましたように、常に室温が均一に保たれるため、家じゅうどこにいても寒さ、暑さを我慢せず快適に生活できるということです。

冬の脱衣所やふろ場、廊下で寒い思いをしたり、夏、蒸し暑い部屋に帰ってきて窓を全開してエアコンが効くのをひたすら待ったりする必要がなくなります。

また、家の中に温度差ができないため、冬によく起こるお年寄りのヒートショックによる事故を防ぎ、住む人の健康を守ります。

長い間、特に冬場の寒さを我慢してきた日本人にとって、薄着でどこでも過ごせる生活はあこがれの生活でもあります。

全館空調のデメリット

全館空調のデメリットについて

デメリットについては前項でも各方式について述べてきたように、方式によって多大な費用がかかる場合があります。費用をかけたのに暑い、寒い、或は電気代が多大にかかる、カビ臭いといった声も寄せられています。また空気汚染の原因になることもあります。それぞれの方法を良く理解して取り入れましょう。

館空調を採用する際の注意点

そこで全館空調を採用する際の注意点について紹介します。

1. 断熱性、気密性の高い家である

まず、断熱性と特に気密性が高い家であることが大前提です。少ないエネルギーで家全体の温度を均一にするシステムですから、隙間があるとそこから外気が出入りして機能は発揮できなくなります。

全館空調を採用するのであればその住宅会社と契約する前に、今まで建ててきた家のC値の実績や気密測定を行っているかどうかについて確認してみてください。断熱性能は断熱材を厚くすればどの位置に施工してもUA値は必ず上がりますが、気密性能は知識や施工能力がなければ上がりません。

2. ダクトの汚染に気をつける

全館空調のダクト内汚染の画像

また第1のダクト式方法を採る場合は住む人の健康を考えて、ダクトの汚染について対策ができているかどうか確認して下さい。よく言われるカビ臭はダクト内の結露から起こるものと考えられます。

3. 床下の空気汚染や有害物質について

全館空調の床下エアコンの画像

第2の床下エアコン方式を採用する場合はそしてラドンなどの床下の有害物質について知識があり、防護対策がなされているか確かめる必要があります。

また、基礎断熱の施工能力や知識があるかどうかも確認する必要があります。

4. 将来的なメンテナンスコストを含めて比較する

全館空調は住宅会社によっては複雑な機器やシステムを組んでいるため、壁付けエアコンよりも取替や、維持費にイニシャルコストがかかります。

5. 十分な24時間換気がされているか確認する

気密性の高い家で家中に冷暖気を送るため、換気がしっかりできていない家では、キッチンのニオイが他の居室まで行ってしまうこともあります。

ニオイの問題を解決するには、しっかりとした24時間換気装置を設置しましょう

まとめ

全館空調のまとめ

全館空調は家じゅうの温度を均一に保つことができる優れた冷暖房システムです。

一方で、費用が多大にかかったり、複雑なシステムや機器により故障やメンテナンスなどのデメリットもあります。

弊社は20年前から高気密、高断熱に取り組んできました。トイレやふろ場、廊下など、家中どこにいても、朝起きた時も夜寝る時も、外出から帰った時も、快適で健康に暮らせる家を建てることができたらどんなにすばらしいだろうという思いでした。取り組み当初は高額な樹脂サッシや換気設備を使って、ダクトを這いまわして高額な家を建ててきました。そのころのお施主様はお医者さんなどの裕福な方ばかりでした。しかし実績を重ね、試行錯誤していくうちに、複雑な機器を取り入れ、費用をかけなくても、しっかりと気密、断熱施工ができれば、シンプルで自然に家中均一な温度を保つことができ、季節のいい時は窓を開けて自然の風を取り入れて、暑さ、寒さが厳しい季節や花粉が飛び交う季節は、閉め切っても家中が快適に暮らせることに気づきました。以上のような理由から第3の方法の全館空調をお勧めしています。

もし採用するか迷った場合は、何となく良さそうではなく、なぜ全館空調が必要か考えて判断してみてください。そしてその住宅会社が採用しているしくみやコストを良く理解し、なぜ全館空調を採用しているか聞いてみて下さい。