コロナと換気 窓を開けずに空気が入れ替える換気の話
新型コロナウィルスとの生活ももう4年目を迎えようとしています。当初その猛威に驚き、他人との対面すら拒絶する人もいました。そのような中で何度も緊急事態宣言が発令され、人の移動が制限され、解除されては、また発令されるということを繰り返してきました。そして冬を迎えてまた第8波の兆しが見えてきました。私達はこの数年の経験から、真冬、また真夏、寒くて、或は暑くて窓を開けられなくなり、冷暖房に頼り出す季節に急激に感染が拡大してきたことに気づきました。そして、窓を開けても快適に暮らせる春、秋に終息するということを繰り返してきました。しかし、さうさの厳しい日本の真冬に窓を開けるのはつらいものです。もし、締め切っても暖房が効いた部屋で快適に暮らしながら充分な換気ができればいいですね。そこで、窓を開けなくても空気が入れ替わる住宅の機械による換気について考えてみたいと思います。
目次
計画換気の定義
計画換気の原則とは常時、出入口を明確にして、必要な量の換気をすることです。
常時
換気は1年中・24時間行われるものです。
出入口
まず外の新鮮空気を最初に人間に与えるために、特に寝室などの居室から給気します。(入口)新鮮空気は人の呼吸やホコリ、建材から出るガスなどによってだんだん汚れていきながら、一番汚れるトイレ、浴室、キッチンそして湿気や化学物質が滞留しやすい納戸から排気します。(出口)これを間違えると居室に汚染空気が流れてしまいます。
必要な換気量
必要な換気量とは人が普通に生活していても空気が清浄に保たれるのに必要な量のことです。空気の汚れの指針として使われるのが炭酸ガス(CO2)濃度です。人間は酸素を吸って炭酸ガスを吐き出しています。したがって、部屋の中に人間がいれば炭酸ガス濃度は高まります。そして人体からホコリやニオイ、またこのたびのようなウィルスが出てきます。これが空気の汚れです。この汚れを除去するためにどれだけの換気量が必要なのでしょうか?炭酸ガス濃度が1000ppm以下なら空気は清浄だと考えます。人のいない自然の中での炭酸ガスの濃度は350ppm程度です。 人が居て1000ppmを超えると気になりだすので、1000ppmが基準値になります。CO2が増えるにつれ、ニオイもホコリも出てくるという判断です。でも1000ppmを超えたからと言って息苦しいということはありません。1000ppmはあくまで清浄な空気の範疇で、3000ppmでも鼻が慣れてしまっている居住者には気づくことがないくらいです。炭酸ガス濃度を1000ppm以下に抑えるためには一人当たり20~30㎥/時の換気が必要とされています。その根拠は次のような計算によります。
炭酸ガスの許容濃度=1000ppm=0.001ℓ
・新鮮空気の炭酸ガス濃度=350ppm=0.00035ℓ
・就寝中の1人当たり炭酸ガス排出量=13ℓ/時・人
・生活時の1人当たり炭酸ガス排出量=20ℓ/時・人
必要換気量=炭酸ガス発生量÷許容濃度
・就寝時の必要換気量=0.013÷(0.001-0.00035)=20㎥/時
・生活時の必要換気量=0.020÷(0.001-0.00035)=30.8≒30㎥/時
さて、一人当たりの必要換気量がわかったのですから、1軒の家または1部屋に何人いるのかを設定すれば1軒分の換気量がでます。しかし、日本の住宅ではこうした換気量の計算をするのではなく、換気回数で必要換気量を示しています。換気回数というのは室内の空気が外の空気と1時間で何回入れ替わるかを示したものです。現在の日本の住宅の基準では0.5回/時とされています。(2時間で1回転)では、0.5回/時というのはどの程度の換気量になるにでしょうか。日本の家の現在の平均は40坪(132㎡)程度ですから、132㎡×天井高さ2.3m×0.5回/時というこことになります。 一人当たり30㎥/時の換気が必要だとすれば、4人家族の場合には120㎥/時になってちょうどよいと言えそうです。でも大きな家になると居住人数と換気のバランスが合わなくなってきます。 6畳のような狭い部屋だと0.5回/時では少なくなりますが、24畳にように大きな部屋では多すぎることになります。また部屋の中にいるのがいつも一人とは限りません。0.5回/時分の換気量というのはあくまで設計上も目安であって、生活上では換気量が不足すれば窓を開けるなどの行為が必要になります。換気の話になると「部屋の中で澱む部分がある。」とかやたら細かいところで議論がたたかわされることがありますが、換気というのは以上のように計算とおりにいくものではありませんから、居住者自信が空気の汚れを敏感に察知して、窓を開けるとか、ドアを開放して空間を大きくするなどの措置が必要になるのです。
換気と気密
気密にするから換気が必要?
日本の家は昔は隙間だらけでしたから換気装置など必要ありませんでした。ところが、アルミサッシが入ったり、新建材が使われるようになって住宅がどんどん気密化している状態でも「まだ自分のつくる家は隙間が多いので換気装置など必要ない」と思っている業者がいます。高気密住宅を「気密窒息住宅」と攻撃したり、「『中気密中断熱住宅』こそ自然に適応した理想の家である。」と主張している工法のメーカーもあります。気密にするから換気が必要になる。気密でなければ換気は不要。高気密住宅以外は換気はいらない・・・こんな順番で考えている間は換気も気密も理解されません。
自然換気
自然換気とは機械力を使わないで換気を行うもので、換気の原動力は風力と温度差の2つを利用します。
風力換気
機械的に換気しなくても隙間があれば外の空気は家の中に出入りします。風が吹けば隙間風が多くなるのは誰もが知っていることです。風が吹くと隙間風は風上から入ってきて、風下に出ていきます。風の強弱で換気量は変化し、風の向きで換気の流れも変わります。したがって、隙間風は量的にも不安定だし、便所から入ってリビングから抜けていくような逆流が起こります。
温度差換気
隙間風は風だけではなく温度差でも起こります。これを温度差換気といいます。温度差というと家の中の上下の温度差だと勘違いをする人が少なくありませんが、この場合の温度差は家の中と外気温の差のことです。温度差換気の空気の動き方は下図のように下から入って上から出ていくような経路を描きます。室内の暖かい空気は軽いので上昇しようとしますが、外から侵入する冷気は重いので下に潜ろうとします。このため、下から入って上から出ていくことになるのです。温度差が大きければ大きいほど、高低差が大きければ大きいほどこの流れは強くなります。寒冷地ほど冬に自然換気は多くなります。平屋は自然換気が期待できません。同様に高低差がないマンションも温度差換気では計画できません。
強制換気
強制換気にするとどうなる?
隙間風についてはこのへんにしておいて、次に機械換気をした場合にどんな空気の流れになるのかを見ていきましょう。図①は先に述べたように温度差による空気の流れです。この状態で換気扇を運転すると空気の圧力は外よりマイナスになります。これを負圧といいます。このとき、温度差換気によって下から入って上から出る圧力が働いているので、上下同じように空気が入ってくるわけではなく、下から入りやすく、上から出やすい状態になっています。上から出やすいということは2階の寝室から外気を取り入れにくいということです。
換気の定義で述べたように、換気の入口とは人が長時間いるところですから寝室が目標になるわけです。2階の寝室から取り入れにくく、就寝時には人のいないリビングなどから入りやすいということで逆になってしまいます。(図③)
では2階の寝室に取り付けた給気口から何としても十分に取り入れるためにはどうすればいいでしょうか。ここで気密性が出てくるのです。建物の気密が高まれば高まるほど、2階の寝室からの給気は増えるのです。(図④)出入口を明確にするとは、つまり気密性を高めるということだったのです。
強制換気に必要な気密性
では、どのくらい気密性がいるのでしょうか?図は建物の気密性能の変化による外気導入量の分布を示したものです。外気と室内の温度差が10℃の温暖地の場合の図です。
温暖地でも気密性が5㎝²/㎡だと1階から入って2階から出て行ってしまいます。これでは寝室から給気することができません。気密性を高めて2cm²/㎡になると2階からも入っ入ってくることがわかります。この差は大きいでよね。でも、まだ1階のほうが給気量が大きくなっています。さらに気密を上げて1㎝²/㎡にしてみるとほとんんど1階2階関係なく、全体的に給気するようになります。温暖地でも5㎝²/㎡では計画換気にならないこと、気密の目安は2cm²/㎡だということがわかります。そして、高気密に意欲的な業者が1㎝²/㎡を切るほどの気密性を出したいと考える気持ちが理解できたと思います。
そして温暖地でもこのような状態ですから、寒冷地ではもっと気密の重要性が高いことは分かっていただけると思います。
換気の種類
全般換気と局所換気
換気には全般換気と局所換気があります。全般換気は家の中全体を換気するもの、局所換気は便所とか浴室で単独に行われるものです。全般換気の中でも、第1種から第4種まで4つに分類されます。第1種~第3種までは機械換気で、第4種は自然換気です。機械換気の中でも、第1種は給排気型、第2種は給気型、第3種は排気型に分かれます。ではそれぞれの特徴を見ていきましょう。
第1種
給気も排気も強制的(機械的)に行うもので給排気型と呼びます。給排気なので室内の圧力はプラス(正圧といいます)、マイナス(負圧といいます)どちらにも調整できます。
第2種
給気を強制的に行い、自然排気するもので給気型といいます。強制的に給気するので、室内の圧力はいつも膨れ気味になります。つまり室内の圧力はプラスになります。外に向けてパンパンの状態になりますから、隙間から外気が入りこみにくくなって、冷気やほこりの侵入を防ぐというメリットがあります。そこでクリーンルームのようなホコリのない室内を作るときの換気はこのタイプになります。
第3種
強制的に排気し、自然給気をするもので排気型と呼びます。排気だけ強制的に行うので、室内はいつもしぼんだ状態です。つまり室内の圧力はマイナス(負圧)になります。給気は居室から行いますが、排気はダーティゾーン各所から行うので、隙間が大きくても、窓を開けて汚染空気を排出することだけは確実です。しかし問題は、気密性が低い家では冬に2階の寝室から給気できなくなることです。気密性が低いと、温度差換気によって2階からは給気しにくくなるからです。
第4種
換気扇を用いずに自然給気口をもうけるだけで換気をコントロールするもので自然換気と呼びます。自然換気といえば隙間風のように思われがちですが、隙間風はコントロールできないので換気とは呼びません。漏気です。自然換気は機械力を使いませんが、温度差換気を利用して空気の流れを作ります。温度差換気は温度差が大きければ大きいほど換気量は増えますから、札幌のような寒冷地で実践調査研究が盛んですが、本州では積極的ではありません。
以上第1種から第4種まで見てきましたが、現状高気密、高断熱住宅で採用されているのは第1種と第3種です。この場合の第1種は熱交換換気がほとんどです。
熱交換換気
換気というのは外気をを取り入れて、室内の空気を放出するわけですから熱の損失を伴います。よく「せっかく高気密にしたのに換気したのでは熱がみんな逃げちゃうじゃないですか?」という話を聞きます。換気をすれば熱をどんどん捨ててしまうように思う人がいても当然です。高断熱、高気密住宅では換気による熱損失量は全体の1/3もありますから無視できません。 断熱性能が高まれば高まるほど、換気による熱損失の割合は大きくなります。なぜなら断熱が増えれば壁や窓からの熱損失は減りますが、換気による熱損失量は変わらないからです。 したがって、断熱性をどんどん高めて、熱損失を極力抑えたいということであれば、換気による熱損失分を何とかして減らさなければなりません。そこで登場するのが熱交換換気というものです。
熱交換換気というのは室内の温かい空気と外の冷たい空気が熱を交換しながら給排気されることです。排気する時に、外気を直接給気する普通の換気に比べれば冷気を感じなくて済むし、省エネにもなります。これは冬の話ですが、夏はこの逆になります。このように第1種熱交換型の換気を使うことにより、窓を開けずに空気をきれいに入れ替える換気が可能になるのです。 コロナ禍で巣ごもり生活を強いられている今日、今まで以上に住まいに快適性が求められています。そのような中で改めて換気について考えてみました。
南 雄三著 「スラスラ読める 断熱・気密のすべて」より引用