利他

今月は障害者雇用で有名な日本理化学工業㈱の会長、大山泰弘氏の著書「利他のすすめ」を紹介します。日本理化学工業はチョークを作っている会社で社員74人、そのうち55人が知的障害者(その内26人がIQ50以下の重度障害者)です。特に製造ラインはほぼ100%知的障害者で構成されています。(障害者雇用割合74%)

著書のはじめにのところにこう書かれています。

“人間が生きていくうえでもっとも大切なことは何か。それはとてもシンプルなことです。「人の役に立つことこそ、幸せ」この一言に尽きます。人の役に立つこと、すなわち「利他」こそ幸せに生きる根本原理なのです。一見、自己犠牲のように見えるかもしれません。しかし、それとは正反対です。むしろ、人の役に立つことで、私たちは幸せを感じることができます。人間はそのようにつくられているのです。そして、その幸せを追い求めて「利他」を愚直に積み重ねることによって、個性や才能が磨かれ、ついには自己実現にまでいたることができます。「自分が、自分が」と自己中心主義で生きるよりも、ずっと強く生きることができるのです。このことを私に教えてくれたのは知的障害者にほかなりません。彼らとともに働くなかで、私の心の中に自然と培われてきたことなのです。”

 日本理化学工業は1937年に大山泰弘氏の父上が創業されました。そして、2代目(本当は教師になりたかったのですが、父上の病気のため23歳で苦渋の入社をする)として働いている1959年、運命の出会いがあるのです。一人の養護学校の先生が大山氏を訪ね、「生徒を就職させていただけませんか」と何度も頭を下げ懇願されます。この当時の大山氏は知的障害者に対し偏見を持っていました。そしてこう言ったのでした「そんな、おかしな人を雇ってくれなんて、とんでもないですよ。」

しかし、養護学校の先生はあきらめませんでした。数日後、再びやってきて同じように「就職を——」と頭を下げるのです。大山氏はそれでも断りました。3度目に先生がやってきたとき、先生は言いました。「もう、就職とは申しません。でも、せめて働く体験だけでもさせていただけませんか。あの子たちはこの先、親元を離れて地方の施設に入ることになります。そうなれば一生働くということを知らずに、この世を終ってしまう人になるのです。一度だけでも、働くということを経験させてやりたいんです。」そこで、大山氏にもかわいそうだなという同情心が芽生え、「2週間程度の就業体験なら」ということで受け入れました。

 25歳の二人の女性が体験入社しました。そして2週間経ちました。大山氏は当然養護施設に帰すつもりでした。ところが社員全員が、「自分たちが面倒みるからあの子達を雇ってください」と願い出たのでした。

 こうして、日本理化学工業の障害者雇用が始まっていったのでした。その道のりは決して平坦ではありませんでした。無断欠勤や暴れる人、大山氏は傷つき、へこたれそうにもなります。さらに、日本理化学工業は知的障害者を安く使って金儲けしていると、事実無根の批判までされます。(日本理化学工業は健常者のパートと同じ賃金を払っています)「なぜ自分がこんな目に会わなければならないのか」と落ち込むことも。そんな時、きっと彼はこの出来事を想い起こしていたと思います。著書にこう書かれています。”彼女たちは(最初の二人)雨の日も風の日も、満員電車に乗って通勤してきます。そして、単調な仕事に全身全霊で打ち込みます。どうしても言うことを聞いてくれないときに、困り果てて「施設に帰すよ」と言うと、泣いて嫌がります。どうして、施設にいれば楽に過ごすことができるはずなのに、つらい思いをしてまで工場で働こうとするのだろうか?私には不思議でなりませんでした。

 そんなある日のことです。私はとある方の法要のために禅寺を訪れました。———中略———「うちの工場には知的障害を持つ二人の少女が働いています。施設にいれば楽ができるのに、なぜ工場で働こうとするのでしょうか?」一瞬、間がありました。

そして、ご住職は私の目をまっすぐに見つめながら、こうおっしゃったのです。

「人間の幸せは、ものやお金ではありません。人間の究極の幸せは次の四つです。

人に愛されること、人にほめられること、人の役に立つこと、そして、人から必要とされること。愛されること以外の三つの幸せは、働くことのよって得られます。障害をもつ人たちが働こうとするのは、本当の幸せを求める人間の証なのです」”

 働くことって実は本当にすばらしいことなのです。その答えが上述のご住職の言葉にあります。私は「人に愛されること」も働くことによって得られると考えます。

もちろん働かなくても、上述の四つは実現可能です。しかし、我々凡人にそんな難しいことができるでしょうか。そんな難しいことを考えなくても、大多数の人は働いているのだし、実際、働かないと生活できないという現実もあります。でも、食べていくため、生活していくために働くのではなく、幸せになるために働く、なぜなら働けば人に愛され、人にほめられ、人の役に立ち、人から必要とされる、こんなうれしいこと、楽しいことはない、そう考えれば、働けることに喜びを見出すことは簡単なことだと思います。

でも現実はうれしいこと、楽しいことばかりではありません。思い通りにならないことの連続といってもいいくらいです。そんなときには思い出してくださいね。

「思い通りにならないことこそが、この世で最も価値あることだ」という考え方を。(飯田先生)思い通りにならないとき、その人がどんな対応をとるかで人間の値打ちがわかる、前向きで、良心的で、愛のある行動をとるのか、後ろ向きで、良心的でない、愛のない行動をするのかで、人生は大きく変わってきます。答えはいうまでもないですよね。前向きで、良心的で、愛のある行動をとれば、どんどんと良いことが起こってきます。反対に、後ろ向きで、良心的でない、愛のない行動をすれば、どんどんとつらく厳しい出来事が繰り返し起こってきます。

 私たちは、働くことで喜びを得、成長していくのだと思います。私は今、仕事があり、健康で働けることに心から感謝しています。スピードは遅いですが、少しずつ成長しているような気がします。(少し傲慢かも)利他の教えを肝に銘じて精進します。

みなさん応援してくださいね。最後まで読んでいただいて有難うございました。