気密・断熱のすべて

こんにちは、神戸のセレクトホームの家づくりサポーターの渡辺です。地球温暖化対策として温室効果ガスの削減が叫ばれ、菅総理が2020年10月「2050年カーボンニュートラル宣言」を行いました。温暖化に伴う気象状況の異変、甚大な災害が身近な問題になり、もはや「脱炭素化」は一部の環境意識の高い人たちだけが議論するテーマではなくなりました。そのような状況下で私たちが家庭で使うエネルギーに対しても、住宅の性能を上げエネルギーを極力必要としない住宅を建築することが求められるようになりました。具体的な数値目標としてZEH基準(1次エネルギー消費の収支がゼロ)という目安が2014年に制定されましたが、この数値を満たせば収支は本当にゼロになるのか、あるいは暖かくて涼しい住み心地のいい家になるのか?というとこれは少し違うような気がします。そこで、そもそも性能の高い家とは何なのか?断熱と気密の基礎から少しずつ考えてみたいと思います。

高断熱住宅のおすすめZEHの説明画像

                    参考文献 スラスラわかる断熱・気密のすべて 南雄三著

人と断熱

人は恒温動物です。なので体温が急に下がったり、上がったりすれば死んでしまいます。37℃程度を維持していかなければなりません。ところが外の温度は、夏は30℃を超え、冬は0℃を下廻ることがあります。したがって、なにかしらの温度調節機能が必要です。暑いと汗をかくのはそのためで、汗が蒸発する時に体温を奪います。うちわであおぐと涼しくなるのは風が発汗をスムーズにするからです。それでも暑くてしかたがない場合は冷房を運転します。室内の温度を機械的に下げるのです。この時に大量のCO2が排出されます。 寒い時の体温調節は「震え」です。ブルブルっとすると身体の中の熱が作られます。でもしょっちゅうブルっているわけにもいきませんし、ブルってもそんなに暖かく感じませんよね。そのために人間は「服」を着ます。つまり服は断熱材なのです。犬や猫には毛があってそれが服の代わりをします。服よりもひと回りもふた回りも大きい断熱材が「家」です。昔の農家の屋根を思い出してください。たっぷりした草ぶき屋根が乗っていました。草ぶき屋根の草は藁や茅でしたが、その断面をよく見ると筒になっています。この筒の中に空気を閉じ込めているので断熱性があるのです。今、私たちが目にする断熱材のグラスウールも、茅と同様に空気を繊維の中に閉じ込めることで断熱します。昔の民家の草葺き屋根もグラスウールと同じくらいの断熱性能を持っていたのですね。今の住宅に使われているグラスウールは50ミリとか100ミリの厚みでしかありません。これに対して民家の茅葺き屋根は200ミリも300ミリもあるのですから、民家の屋根は超高断熱だったと言えるのです。

高断熱住宅の説明画像

断熱・気密と空調

セーターは風に弱い

太めの毛糸で編んだセーターはフワフワしていて暖かです。でもセーターは目が粗いため風を通しますから、風が吹けばそれを着ていてもちっとも暖かくなりません。そこでセーターの上にウインドブレーカーを着てみると、とたんに暖かくなります。ウインドブレーカーで気密性が高まったのです。要するに、どんなに断熱性が立派でも気密性がなければ暖かくなりません。断熱と気密は一体であって、断熱はいいけど気密は嫌いというわけにはいかないのです。

高断熱住宅のセーターを着た例の説明画像

しかし、昨今のZEH基準にはいつの間にか断熱のみで気密がどこかに行ってしまいました。これではいくらZEH基準値でも省エネにはならないのです。このことは、ある一部の気密が不得意なハウスメーカーの圧力がかかっているからだと言われています。

空調に支配された家

「断熱と気密が一体だというにはわかるが、夏は気密じゃないほうが涼しいはず・・・」たしかにそのとおりですね。大きな草葺きの屋根の下で、風通しのよい縁側でスイカを食べていれば最高です。深い軒の出が日陰をつくり、草葺き屋根の高断熱が強烈な日差しを防ぎます。夏は断熱も必要ですが、通風も必要なのです。そして通風するためには大きな開口が必要ですから、高気密は逆効果になりそうです。冬は高気密のほうがいいけれど、夏は気密が邪魔・・・断熱、気密の話は北欧のように寒冷な地域に好都合なもので、日本には適さないのかもしれません。

高断熱住宅を建てるための夕涼みのイメージ画像

でもそんな話に強烈に反論する人がいます。「日本のように蒸し暑い夏を持つ地域こそ高断熱・高気密は必要なのだ。蒸し暑さの中で快適に過ごすには除湿が必要で、冷房運転して室内も温度と湿度を下げなければならない。でも、高断熱・高気密にすれば1台のエアコンで家全体を冷房することができる。したがって、日本にこそ高断熱、高気密化が必要なのである。」という主張です。たしかに冷房することを前提にすれば断熱、気密が重要だし、今では縁側で夕涼みなんて夢のような話だし、冷房のない家なんてないし・・ だったら高断熱、高気密化が理にかなっているように思われます。でもこれはある見方をすれば『空調に支配された家』と言われるかもしれません。

「開けたり、閉めたり」

窓で開く

さて、断熱、気密について、ここまで理解はできたが、冬は気密がいいが、夏は逆効果という矛盾ができてきました。ここで取り上げたいのが窓の存在です。民家には大きな窓があって、夏は風が抜けていました。今の家にも窓があります。窓を開ければ気密は一瞬にして消滅し、窓から風を取り入れることができます。要するに高断熱、高気密化は通風を無視するものではないのです。「蒸し暑い日本では冷房で除湿することが重要」という人がいますが、この場合には窓は閉め切りです。でもそれはそれ、いろいろな考えのひとがいるのですから、窓を閉めて冷房で快適さを得るのも1つの選択です。ただ、これが最高に快適だということが間違いであると同時に、そんな考え方を認めないというのも間違いです。もし冷房に頼らなくても快適であれば、省エネになりますしこしたことはありません。このように窓の存在は断熱、気密化の夏と冬における矛盾をなくします。断熱・気密性を充実させてうえで窓の開閉で調節することもひとつの方法です。 

断熱・気密が先で空調が後

次にさきほど述べた「高断熱、高気密の家は空調に支配されているようだ」という言葉について考えてましょう。人間は恒温動物で一定の体温を維持しなければなりませんが、外気温は大きく波打って、冬は体温よりずっと低温に、夏はずっと高温になります。この様子を図にしてみました。

高気密 高断熱を建てるためのグラフ画像

真ん中にあるグレー部分の帯が人間が保たなければならない温度(快適温度)です。帯の幅は個人差や我慢できる範囲を示します。冬は寒さに慣れてきて少し低くなっていますが、夏はその逆に少し高くなっています。それでも外気温(外部条件)との差は大きすぎます。冬は裸のまま放置されれば死に至ります。外気温は大きく波打っていますが、この波を体温に近づけるのが建築的手法です。要するに断熱・気密ということです。断熱・気密にすることで波は和らぎ、外気温は体温に近づいてきます。でもまだ体温まで届きません。この不足分を補うなが、機械的手法です。つまり暖冷房(空調)です。空調で機械的に快適な温度までコントロールするのです。図をみれば理解しやすいと思いますが、外気温の影響をまず断熱が和らげますが、それでも足りなければ空調の出番です。もし断熱だけですむのなら空調は不要で省エネになります。

高断熱・高気密の家は空調に支配されている」のではなく、その逆で、断熱、気密が高くなれば空調は小さくなります。断熱・気密が先にあって空調は後にくるものなのです。日本の家は冬がくれば暖房するのが当たり前になっています。暖房が先にきて、断熱、気密が後になっているのです。こんな状態では大きな熱で暖房しないと快適になりませんから、快適さは贅沢なもの思われています。快適ということばに対して年配の人ほど罪の意識を感じるのはこんな理由があるのだと思います。そこで登場するのが我慢です。できるだけ暖房しないで寒さを我慢するのです。「省エネルギー」を節約と勘違いしている人もいます。我慢するより、断熱・気密という知恵を使って、空調を小さくしながら快適さを得られればこれこそが省エネなのです。

気密性能(隙間相当面積)

建物の気密性能は「隙間相当面積」(単位c㎡/㎡)で表します。単純に隙間面積といえばよいものを難しく呼んでいますが、建物の床面積1㎡当たりで、どれだけ隙間があるかを示します。もちろん数値が小さいほど気密性能は高くなります。面倒なのは気密測定をしないと隙間の大きさはわからないということです。それも家の中と外の間で1mmH2O(またはmmAq)の圧力ができたときにどれほどの隙間があるかを示すことになっています。mmH2Oってなに?という声が聞こえてきそうですが、mmは長さのミリメートルのことで、H2OもAqも水のことです。                                   

図のように水に入ったU字型のガラス管が家の内と外にまたがっていたとします。気密測定をして家の中の空気を外に排出すると家の中の空気の圧力は下がりますから、ガラス管の中の水は内側の方が外の圧力に押されて持ち上がります。このとき、1mmの水がもち上がったときの圧力差(差圧といいます)を1mmH2Oというのです。

気密性能の実験のイメージ画像

また圧力差はパスカルという単位で示すことが世界共通になっており、1ミリH2Oは9.8Pa(パスカル)になります。面倒なので一般に10パスカルと呼んでいます。  

   差圧 1mmH2O=9.8Pa(パスカル)

一般的に高気密住宅というのは隙間相当面積2.0㎝2/m2以下のものとされて来ました。1999年には次世代省エネルギー基準が制定され、日本全国に住宅の気密化と計画換気が義務付けられましたが。その時の気密性能は寒冷地で2.0㎝2/m2、その他の地域で5.0㎝2/m2と高いものとはいえませんが、最低基準としてありました。しかし残念なことには現在では気密の基準は消滅してしましました。これは前述しましたように、大手ハウスメーカーのなかに気密を不得意とするメーカーがあるからです。カナダやスウェーデンなどの北欧地域の基準にするためには、0.7㎝2/m2程度のレベルが必要になります。

気密測定

住宅の気密性を知るには現場での気密測定が必要です。測定方法は気密測定器をセットして、ファンで排気して室内を負圧にし、そのときの排気量と圧力差から隙間相当面積を割り出します。

ファンをぐんぐん回しますが、気密が高いと隙間から空気が入ってきません。排気される量は少なく、室内のマイナス圧力はどんどん高まっていきます。こんな状態になれば気密は高いと判断することができます。

高気密住宅の気密測定機器の画像

自然温度差

日射+生活熱=自然温度

先ほどの章で見た温度差の波の図を思い出してください。大きなうねりが外気温、そのうねりを断熱・気密という建築的手法が緩やかにしていました。

気密、断熱についての説明画像

昔の日本家屋では左の図のようになります。断熱・気密性が低いために家の中の温度が外気温と差がありませんね。これに対して高気密・高断熱の家は右の図のようになります。断熱・気密性が高いために家の中の温度が大幅に快適温度に近づいていますし、うねりの両端は快適温度の幅の中に食い込んでいます。この部分が、外気温が下がっても暖房しないで済む範囲になります。

高気密、高断熱の家のイメージ図

このように断熱・気密性によって家の中の温度のほうが外気温より高くなる温度のことを、専門的には自然温度といいます。暖房しないでも家の中の温度が自然に上がるのですから歓迎しない手はありません。でもなぜそんなことが起こるのでしょうか。

家の中を暖める熱というと、まずは「日射」がありますね。そして照明、冷蔵庫やテレビから出る熱、調理をして煮炊きをする熱、それと私たち人間の体温もあります。これらの熱は「生活熱」してまとめられます。つまり日射と生活熱が家の中の温度を高める理由だったのです。

自然温度とはどの程度のものか?まず日射については地域の気候によって違ってきます。冬の日射量の多い太平洋側の地域とその逆の日本海側の地域では大きな差がでてしまいます。家の窓の大きさでも差が出ます。一方、生活熱のほうはどこも似たようなものですから、大雑把に1人当たり100W程度として計算します。100Wぐらいの電球くらいの熱を出しているということです。「なんだその程度のこと?」と思うでしょうが、40Wの電球だって触れば火傷します。4人家族だったら400Wです。もったいないと言いながら消して歩くはずです。家の中ではそれほど大きな熱が自然につくられているのです。

高断熱住宅の生活熱の説明画像

熱は逃げるもの

さて日射と生活熱によって家の中は温まりますが、その熱はいつまでもそこに居てくれるわけではありません。寒い外に向かってどんどん逃げていきます。そこで登場するのが断熱・気密性です。家から熱が逃げる様子を図で示してみると、まず、屋根(天井)を通して逃げます。次に壁、そして床です。さらに窓もあります。これらの部分は断熱の領域です。断熱が高いほど熱が逃げるのを減らすことができます。そしてもう一つ熱が逃げる要素として「換気」があります。家の内と外で空気が入れ替わることを換気といいます。家の中の暖かい空気がそのまま出ていって、外の冷たい空気が入ってくるのですから、換気でも熱は逃げていってしまいます。

おすすめの高断熱住宅の隙間風のイメージ図

換気は必要、でも隙間風は不要

「だったら、換気なんてしなければ・・・」と言われそうですが、換気は健康に生活するために必要な行為です。したがって換気による熱の逃げはしかたないことです。ただ、必要な換気量というものがあって、それ以上の換気量になれば熱を捨てているようなものです。換気とは空気の出入りをコントロールするものなのです。そこで思い浮かぶのが隙間風というものです。隙間風はどこかの隙間から勝手にに空気が出入りするものですから、量をコントロールすることはできません。なので隙間の大きな家では冬に空気の出し入れが多くなりすぎて、熱をムダに逃すことになってしまいます。そこで気密性が効いてくるのです。隙間をできるだけなくしておいて、人為的に換気をコントロールすること。これが気密性の役目です。

高断熱住宅でない隙間風のイラスト

家電から発生する熱が戻る?

断熱性と気密性を高くすることによって、自然につくられた室内の温度(自然温度差)」を有効利用することができます。昔の寒い家だったら、照明の熱なんて意識することもなかったけれど、断熱・気密のよい家に住んだら照明の熱もテレビの熱も大きな熱だとわかるし、まるでその熱がみんな戻ってくるような感じになるのです。そんなつもりで家の中を見渡せばテレビから熱風が噴き出ていて、冷蔵庫だって大きな熱を出すし、そして暖房便座だってお尻を暖める小さな熱ではなく、トイレ全体を暖めるるほどの熱を出していることに気づきます。断熱・気密の低い家ではこうした熱をそのまま大気に捨てています。「もったいない・・・」と実感するのは暖かい家に住んでにて初めてわかることなのです。

家電から発生する熱の説明画像

もっとも、冬は熱が戻ってきてうれしいのですが、夏はその逆に熱が逃げないので暑くなります。だから夏には不快の元凶になる日射を中に入らないように防げばよいし、生活熱を窓を開けて風とともに逃がしてしまえばよいのです。

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