本当はこわい壁の中の結露の話
こんにちは、セレクトホームの渡辺です。
結露はだれでもいやな物ですが、いたるところで起こります。なので、携帯や時計など精密機械を含めあらゆる物に防露対策が講じられています。
ここでは住宅の結露について考えてみたいと思います。 引用 南雄三著 「断熱・気密のすべて」より
結露のメカニズム
水は熱で変化する
結露というのは文字どおり「露を結ぶ」ということですね。空気中の水蒸気がたくさん集まって水滴まで大きくなったものです。水蒸気はガス(気体)状ですが、冷やされて結露すると液体になります。この液体はまた暖められて水蒸気になって・・・。そしてどんどん冷やされると今度は氷になってしまいます。氷になれば固体ですよね。こうして水というのは気体・液体・固体に変化しますが、変化させているのが熱エネルギーです。
空から地上に雨が降ってきますが、雨は台地に湿り気を与えて地下水となり、川を下って海に注ぎます。一方的に雨が降っていたのでは地球上は水で溢れてしまいますが、水は地上や海から蒸発して空に昇り、上空で冷やされて結露して雲をつくり、さらに水滴が大きくなると重くなって落ちてきます。これが雨になるのです。ですから、雨や雲も結露の現象のひとつなのです。 地球には太陽熱が降り注いていますが、太陽熱を一方的に受け取ってばかりいれば地球は灼熱の星になってしまいます。ところが太陽熱で地上の水分が蒸発して、空まで昇って結露するときにその熱を捨ててくるのです。これによって地球は平均15℃を保っているわけです。
このように水の循環は地球と大気との間の熱交換を果たす重要な役割を持っています。でも家の中で発生する水の動きは、循環する状態にはなくて、どんどん結露して対象物をビショビショにし、それが乾く間にカビが繁殖し、そのカビを目当てにダニが寄ってきたり、木材腐朽菌が繁殖して木材をボソボソにしてしまいます。またそこにシロアリがやってくれば勢いよく食害されてしまいます。家の中で発生する結露はとても面倒で、不健康なものなのです。
空気がもてる水の量
空気の中には水蒸気が含まれています。含まれる水蒸気の量は温度によって違ってきます。温度が高くなるほど水蒸気をたくさん含めるようになります。たとえば20℃の空気は17.3gの水蒸気をもつことができますが、1℃の空気は9.4g、0℃の空気は4.85gの水蒸気しかもつことができません。 今、20℃の空気があるとして、水蒸気は持てる量の半分(8.65g)だとします。この状態を「相対湿度50%」と呼びます。私たちがいつも「湿度△△%」と呼んでいるのはこの相対湿度のことです。これに対して空気中に実際に入っている水蒸気の「量」を絶対湿度といいます。単位はg/㎥。つまり1㎥の空気の中にどれだけの重さの水蒸気が入っているかを示します。
今、20℃・50%の空気が何かの理由で急に冷やされたとします。すると空気がもてる水蒸気の量は小さくなり、ついに水蒸気が一杯になった状態を飽和状態と呼びます。相対湿度はもちろん100%です。また空気が冷やされて飽和状態になったときの温度を露点温度と呼びます。20℃・50%の空気は8.7℃まで冷やされると飽和状態になります。つまり露点温度は8.7℃です。
この空気がさらに冷やされると水蒸気を持ちきれなくなって外に出てしまいます。これが結露の始まりです。
空気線図
さて、空気と水蒸気の関係は下に挙げた「空気線図」を見ればよくわかります。この空気線図から、空気の温度の変化によって含み得る水蒸気量(絶対湿度)、露点温度、さらには空気が持っている熱量まで読むことができます。
横軸には温度が、縦軸には絶対湿度が示されます。たくさんの右上がりの放物線が見えますが、これが相対湿度を示す線です。一番外側(左上)側の線が相対湿度100%、つまり飽和状態になります。では少し実習してみましょう。温度20℃・相対湿度60%の空気を図中のA点とすると、A点を右へ平行移動してB点を読むと絶対湿度が8.8g/㎥と読めます。次に左へ平行移動します。つまり空気を冷やしていきます。C点で飽和状態(相対湿度100%)に達します。これ以上冷やせば飽和線を越えてしまいますから、結露が始まります。 このC点から垂線を下すと温度が読めます。(D点)。これが露点温度ということになります。約12℃と読めます。つまり20℃・相対湿度60%の空気は約12℃が露点温度になり、さらに冷やされると結露が始まるということです。このように空気線図をよむことで、空気が結露する様子を知ることができます。
日本の家は結露発生器状態?
結露を防ぐ2つの原則
結露が起こる原理がわかったところで、次に結露を防ぐ方法を考えてみましょう。結露を防ぐには以下の2つの方法があります。
1つは空気を冷やさないことです。冷えなければ空気は小さくならないのですから絶対に結露しません。
もう1つは含んでいる水蒸気の量を少なくすることです。空気の中に入っている水蒸気が少なければ、その空気は冷やされても冷やされても結露するところまで至りません。この状況は絶対にとはいえませんが、結露しにくい状態といえます。
欧米では前者の冷やさない方法を採ってきましたが、日本では後者の空気中の水蒸気を減らす方法を採ってきました。なぜかというと日本の家は寒いので、冷やさないというわけにいかなかったからです。なので隙間風が出入りして水蒸気を飛ばすくらいのほうが安全だといわれてきたのです。しかし、この日本的な結露対策は残念ながらよい結果を生みませんでした。そのために家の中にカビ・ダニを繁殖させるような結果になったのです。
表面結露と内部結露
結露には表面結露と内部結露2つの結露があって、それぞれ違った性格をもちます。表面結露というのは文字どおり、内装表面に起こる結露のことです。一般的に私たちが結露と呼ぶのは窓に起こる結露に代表する表面に起こる結露のことです。また、内部結露というのは壁の内部や天井裏、床下など見えない部分で起こる結露のことで、見えないのでいつの間にか壁の中を腐らせたり、シロアリを招いたりするとても危険なものです。
まずは表面結露について解説していこうと思います。
押入とタンスの裏側は結露しやすい
ひと昔前のハウスメーカーの鉄骨プレハブ住宅などでは押入の中やタンスの裏側がビショビショになったり、お風呂の天井がカビだらけという現象がよくみられました。これは鉄骨が熱伝導率が高く、熱を伝えやすいことや気密をとりにくいことによるものと考えられます。ではなぜ押入やタンスの裏側に結露するのでしょうか。
押入は襖で仕切られ、中には布団が詰まっています。襖や布団が断熱材となって、室内の熱が押入の奥に回らないように働いています。タンスも同じです。タンス自体が断熱材になって、室内の熱を壁の奥まで伝わらないようにしているのです。
このため、押入の奥やタンスの裏側は冷えやすくなっており、そこに水蒸気が回り込めば結露が発生しやすくなります。水蒸気というのはとても小さなもので、圧力差でどこまでも飛んでいきますから、熱が回らない部分でも回り込んでしまうのです。
アウトドア川の衣服で「ゴアテックス®というものがあります。ゴアテックスは空気は通さないけれど水蒸気は通します。したがって、ピニールのように蒸れることがありません。水蒸気が通れる無数の微細な穴が開いているのですが、その穴はあまりに小さいので空気は通れません。
木の板に口をつけて息を吹きかけると息は跳ね返ってきますが、水蒸気は板の中まで透過します。ビニールクロスの下地に使われている石膏ボードも同じように中まで透過します。それほど水蒸気は小さくて、どこまでも回り込んでしまうと思わなければなりませんし、ガラスや金属以外は透過してしまうと考えなければいけません。
個別・間欠暖房
押入やタンスの裏側が冷えるのは理解できました。家の中には同じように熱が回らないで冷え込んでいる部分があります。それが非暖房室です。日本の家は特定の部屋だけ暖房して他の部屋は寒いままが当たり前になっています。これを個別暖房といいます。今でこそ全館空調などということば聞かれるようになりましたが、かつては日本人はこの状態に何の疑いももっていませんでした。しかし欧米の家の中を見れば、この常識が日本だけのものだったと知ることができます。欧米では家の中すべてが暖かいのです。さらに、日本の楊合は家を留守にするときには暖房を消して出かけます。これを間欠暖房といいます。
非暖房室の結露
個別暖房で暖房している部屋の水蒸気が冷えた非暖房室に流れれば、結露の危険が生じます。最も冷えた部分に集中して結露しますから、まず最初に結露するのは窓ガラスでしょう。暖房している部屋の窓ガラスは結露しないので安心していると、北側の部屋や便所の窓ガラスが激しく結露していたりするのです。
開放型ストーブから大量の水が発生
日本で一般的に使われている暖房器といえば石袖やガスを燃料としたストープまたはファンヒーターです。このストーブは室内の酸素を燃やして、燃焼ガスを室内に吹き出すので開放型スト ー ブと呼ばれています。
開放型ストーブは部屋の中で囲炉裏を燃やしているようなもので、嫌なニオイを出し、炭酸ガスを放出し、窒素酸化物など化学物質も吹き出します。不完全燃焼を起こせばとても危険な一酸化炭素まで発生します。そして、ガスとともに大量の水が吹き出されているのです。
石油を燃やすと炭酸ガスと水が発生します。1 Lの石袖を燃やすと実に1130gの水が発生するのです。このように驚くほど水を吹き出しながら燃えていることを私たちは知る必要があります。石油だけでなく、化石燃料はすべて同じです。水はプロパンガスからも出ますし、都市ガスからはもっと激しく出ます。こんな状態ですから、開放型ストーブは結露を起 こすための最大の要因だといってよいのです。
換気が不足
開放型ストーブだけでなく、生活していればたくさんの水蒸気が発生します。1日の生活でどれだけ水蒸気が発生するのでしょうか。冬の40坪程度の家の中で4人家族が生活すると1日に6.7kgの水が発生するという試算があります。大変な量です。 この水を除去するのが換気です。では通常の換気をしていればこの水を放出できるのでしょうか。一般に生活上の空気汚染を防ぐために 必要な換気量は0.5回/時とされています。換気の重要性は他の章でお伝えしていますので省きます。
調湿するものがない
家の中で発生した水蒸気は換気によって外に放出されるだけでなく、内装材にも吸収されます。これを吸湿といいます。
昔の家は土壁をもった木造で、天井は木の板で、床には畳が敷かれ、紙の襖、障子が走っていました。素材すべてが吸湿性をもっていました。
また、吸湿した水分は室内が乾燥してくれば放出(放湿)します。
吸湿して放湿することを調湿といいます。土壁は厚みがたっぷりとあったので、たとえその部分で結露しても水を吸い込んで表面が濡れるようなことはありませんでした。昔の建材はその調湿性で結露を防ぐ力をもっていたのです。
しかし、今日の家は石膏ボードの上にビニールクロスを貼ったり、床も新建材のフローリングになったために、水を含むことができず、結露してしまえばすぐにビショビショに濡れてしまいます。
そのため、最近では調湿する内装材の開発が目立って増えてきました。珪藻土もそうですし、類似の塗り壁材、それらの素材をタイルにしたもの、壁紙にしたものなど、いろいろあります。
ただ、調湿するから結露は起こらないと言い切ることはできません。吸湿して水を含んだまま乾燥することができない状態が続けば、やはりカビが繁殖します。拙宅での経験では、珪藻土を塗った収納でカビが繁殖しました。空気抜けができない状態だったからですが、換気をするようになってからはなくなりました。
調湿する材料が結露してカビが生えると、表面だけでなく中まで根を張りますから、カビを殺すことが難しくなります。調湿する材料はカビを防ぐが、カビが生えてしまうと陰湿な状態になるといわれるのはこのためです。
古本をめくるとプーンとカビのニオイがするのでもわかるように、紙もカビるし、木材もカビるのです。
したがって、調湿材で結露を防ぐと考えるのではなくて、瞬間的に 結露する条件になった場合に吸湿してくれる安全策として捉えることが肝心です。
日本の家は結露して当たり前
以上述べてきたように、断熱・気密性に無頓着な日本の家は暖房にも無頓着で、個別暖房で間欠連転を当たり前にしてきました。そして、有害なガスとともに水を大気に吹き出す開放型ストーブを燃やして不安になることもありません。
また、隙間だらけだった日本の家も今では気密性が高まり、機械的な換気が必要になっているのに、隙間風で十分と思い込んで換気しようとしません。内装材も昔は調湿性のある自然の材でつくられていましたが、今では新建材に変わって、調湿する力を失いました。
こんな状況の日本の家は結露して当たり前。というより、結露させるように生活しているようなもの。現代の日本の家はいろんな意味で結露発生器の状態なのです。
表面結露を防ぐ
日本の住宅は結露発生器状態だったわけですが、表面結露が発生しないようにするには新築時どのようなことに注意して設計すればよいでしょうか?
- 家の中に冷えた部分をつくらない。
- 換気して生活上で発生する水蒸気を放出する。
- 過度な水蒸気を発生させない。
- 調湿性のある内装材をもつ。
①では、断熱・気密を充実させて、家全体に熱を配ることが対策とります。小さな熱で全室暖房です。
②では、空気汚染を防ぐための換気をしていれば十分なので、特別に結露に対応した換気を考える必要はありません。
③では、開放型の暖房機を使わないこと。水蒸気が一時的に大量に発生する場合は局時的な換気で対応することが対策となります。
④では、室内空気汚染防止も考慮して、できるだけ自然材を内装に用いることが対策となります。
カビとは何か
カビは正式には「真菌」と呼びます。一般に病気を招く菌を「黴菌」と呼びますが、徽はカビのことです。カビは胞子と菌糸からできており、
胞子が空気中を浮遊して広がり、異常増殖します。
地球上にはおよそ7万種のカビが存在するといわれますが、日本の建物の中から検出されているカビは200~300種といわれます。
カビが生育するためには温度、水分、栄養、酸素が必要で、好む環境は温度15~28℃、湿度70~95%といわれますが、湿気さえあれば南極でも発生するし、アルミやレンズにも繁殖し、プラスチックは大好物です。
室内ではコンクリートが自由水を生じるまで水を含んだ場合や、建材の表面に結露を生じ、建材が結露を含水して自由水になっている場合、
浴室のタイルの目地に水が残り、目地の含水率が高まって自由水をもつような状態でカビが発生します。
木材は含水が繊維飽和点を超えると自由水が存在するようになりますが、夏でも空気に晒されている木材は繊維飽和点には達しないのでカビは繁殖しません。
しかし、結露や雨漏りによって含水率が高まればカビが繁殖する条件をつくってしまいます。
カビは鼻炎や喘息などアレルギー疾患の要因になるだけでなく、カビ毒による中毒や、白癬(水虫)、そして皮膚や呼吸から体内に侵入したカビが
感染症を起こすことがあります。
アレルギー疾患の罹患率が増加しており、1991年に厚生省が実施した調査では、アレルギーの症状を訴える人は3人に1人という高率になっています。
ダニとは何か
家庭内に存在するダニには、アレルギーの原因になるヒョウヒダニと人を刺すツメダニ、食品を汚染するコナダニなどがあります。
また、家の中に迷い込むダニには疥癬症を起こすヒゼンダニやネズミに寄生するイエダニなどがあります。
ダニは塵、カビ、フケ、食物の屑などを餌にして繁殖し、室内で見られるダニは高温多湿を好み、チリダニは25~28℃、湿度65~90%で
よく繁殖します。
日本の一般住宅の塵中に含まれているダニの数は1950~60年には500匹以下でしたが、80 ~90年には約1600匹と30年の間に3倍以上にも増えた
といわれています。
チリダニ科に属するヒョウヒダニの生体や死骸、糞を吸い込むとアレルギー性鼻炎や喘息を起こします。
グラフは喘息患者のアレルゲンの割合を調査したデータですが、室内塵(ハウスダスト)が49.l%とダントツで多い。
このハウスダストのほとんどがヒョウヒダニの生体や死骸、糞とされています。また、カンジダ、アスペルギルスはカビで、これを加えると、
ダニとカビで喘息アレルゲンの約7割を占めることになります。
ダニはカビのニオイに引き寄せられ、カビを食べて繁殖します。すべてのダニがカビを食べて増えるわけではありませんが、
カビとダニがともに生育すると大繁殖につながることが多いのです。
断熱するほど結露しやすくなる
内部結露の危険性を高める
見える部分で起こる結露のことを表面結露といいました。これに対して内部結露は壁の中、天井裏、床下など見えない部分で起こります。表面結露を起こす要因の1つに断熱不足というものがありましたが、皮肉にも断熱材が内部結露を起こします。断熱性が高いほど表面結露には安全になるが、逆に内部結露の危険を高めるのです。
図は典型的な内部結露の状況です。壁の中に繊維系断熱材のグラスウールが充填されています。内装材は石腎ボードで外壁はサイデイング。そしてサイデイングとグラスウールの間に防水紙が張られています。さて、冬の1日、暖房している室内から冷えた外に向かって水蒸気が流れます。このとき、熱は断熱材に遮られて移動しにくくなっています。このため、外壁と防水紙の部分は冷え込んでいます。水蒸気はこの冷えた壁にぶつかって結露します。
その結露は断熱材を濡らしますから断熱効果を失わせて、さらに結露を助長します。結露はやがて流れ落ち、土台を濡らします。土台は濡れて水を含み、含水率が高まって、木材腐朽菌を繁殖させ、シロアリまでがやってきて食害を始めます。まあ、こんなことが予想されるのです。
木材腐朽菌はじっくりと木材の中にはびこって、木材のセルロースという木の命のように重要な部分を分解してしまうので、木の強度はなくなり、スポンジのようになってしまいます。シロアリはもっと怖くて、木材腐朽菌のように数年かけて木材を侵食していくのとは桁が違い、数週間で木材を食害してしまいます。同じようなことが天井裏、床下でも起こっています。天井裏の場合は天井の上に乗せた断熱材で熱が遮られ屋根裏は冷えています。そこに室内の水蒸気が昇っていけば屋根裏で結露し、結露水は落下して断熱材の上に水たまりをつくるか、天井まで落ちて天井板に染みをつくります。天井の場合はこのように結露しても発見されやすいのですが、壁や床下は気づかぬうちに腐朽が始まる恐れがあります。
内部結露を防ぐ方法
防湿して透湿する?
内部結露とは室内の水蒸気が断熱材の中を透過して、冷えた外壁裏にぶつかって結露することです(図①)。
結露を防ぐには2つの方向があります。1つは図②のように水蒸気の流れを止める方向と、もう1つは図③のように水蒸気を通過させてしまう方向です。まずは水蒸気を止めてしまうことを考えましょう。
図②のように、室内の水蒸気が壁の中に入るのを完全にストップすればよいのです。でも、完全に水蒸気を止めることなどできません(図②.)。コンセントボックスや管類、換気口など、開口部分の気密施工が難しいのです。
次に目先を変えて、水蒸気を勢いよく通過(透過)させてしまえば結露する前に外に出すことができます(図③)。繊維系断熱材は水蒸気をツーツー通します。でも壁の中は断熱材だけでなく、断熱材の外側で抵抗を受けますからスムーズには透過できません(図③)。そこで考えられるのが、できるだけ室内側で水蒸気が壁に入るのを防ぎ、少し入ってしまった水蒸気は結露する前に外に透過させてしまうという二段構えの方法です(④)。
このとき、外壁があっても水蒸気を透過させるためには、外壁自体に透湿性のあるものを用いるか(左図)、または外壁と断熱材の間を離して通気層をつくるか(右図)の2通りあります。前者を「透湿壁工法」、後者を「通気工法」と呼びます。
透湿壁工法と通気工法
日本の外壁は水蒸気を止めるものばかり。70%のシェアをもつという窯業系サイディング、そして金属サイディング、タイル……すべて水蒸気を通さないものばかりです。
これに対して海外の家の壁は煉瓦とか木板とかモルタルとか石とか、いずれも水蒸気を通す材料でできています。こうした外壁材を用いれば透湿壁工法になります。
さて、透湿壁工法は壁と断熱材が密着していますが、通気工法は通気層を通して外につながっています。そこで外の冷たい空気が断熱材の繊維の中に侵入してきます。セーターでは風が通ってしまうのと同じです。そんなときはセーターの上にウインドブレーカーなどの上着を着ますよね。それと同じものが通気工法でも施工されます。それが防風層と呼ばれるシートです。最近の現場ならどこでも見つけることができる白いシートのことです。
この防風層には面白い性能があります。空気も水も通さないのに水蒸気だけは通すことです。防風層には無数の微細な穴が空いています。この穴は水蒸気は通しても空気や水は通さないという小さな穴です。水蒸気の大きさは10万分の4mmくらいといわれるほど小さくて、炭酸ガスより小さく、もちろん空気や水よりはるかに小さいので、こんな魔法のようなことができるのです。
水蒸気は外に行くほど開放
ここで内部結露を防ぐためにもっとも重要な言業を覚えておきましょう。それは「水蒸気は外にいくほど開放」という言葉です。水蒸気の流れの順番で透湿の抵抗を緩めていくということです。そうすれば水蒸気は勢いよく外に出ていきます。
内と外の透湿抵抗は?
外にいくほど開放とはいっても、内と外でどれほどの差があればよいのでしょうか。
ちょっと数字の領域に入っていきますが、洞窟の中を冒険するような気持ちで入り込んでみましょう。外にいくほど開放ということは、水蒸気を通過させない度合いが外にいくほど弱く (小さく)なるということです。この度合いを「透湿抵抗」と呼びます。内部結露を起こさないための、内外透湿抵抗の差(比率)は寒冷の度合いで違ってきます。寒冷地のほうが条件が厳しくなるのは容易に想像できると思います。
下表はフラット35に示された技術基準に示された防湿層を省略することができる地域別の内外透湿抵抗の比です。内と外の区分は断熱材の外側が基点となっています。寒冷な北海道、東北、信州の一部の地域である(1.2.3地域)では1 (外) : 4以上(内)、(屋根、天井にあっては5以上)東北、信州、上越などの寒冷地(4地域)で1 : 2以上、(屋根、天井にあっては3以上)東京、大阪など都心部が含まれ温暖な5.6.7地域では1 : 2以上になります。また、沖縄地域を含む8地域では防湿層を省力することができます。
でも、こんな数値を聞いてもピンとこないと思います。どんな材料を使えばこんな比率になるかがわからないからです。そこで内装材や断熱材に使われる材料の透湿抵抗を図に示してみます。
さすがに防湿層は170以上という高い数値を示しています。そして防風層は0.4以下というとても小さな数値になっています。石膏ボードも高くなくて、水蒸気は通しやすいものだとわかります。グラスウールも100mmの厚みがあっても1.5ですからツーツーです。これに対して発泡プラスチック系断熱材は押出法ポリスチレンフォーム50mmで60ということですから、水蒸気を通さない材科だとわかります。また、意外と抵抗が大きいのが構造用合板で9.9もあり、防水紙のアスファルトフェルトの倍も抵抗が高いことがわかります。
合板を使うと危険?
図①は防湿層なし、外側の面材は防風層だけの場合です。内外透湿抵抗の差は1 : 14ですから寒冷地でも問題ないことになります。図②のように外側の面材に合板を張ると約2 : 1と外側の透湿抵抗のほうが高くなってしまい、温暖地でも結露する危険が出てきます。図③のように面材が防風層で室内側に防湿層を張れば1:438になってまったく問題はありません。④のように面材に合板を張っても、防湿層を施工すれば1 : 17で安全です。 このように、外側の面材を構造用合板にすると内部結露の危険が膨らんできます。そして、室内側に防湿層を張るととても安全になります。
2×4工法の場合には面材として構造用合板が使われます。また在来工法でも耐震性を高めるために構造用合板が張られることが多くなりました。構造用合板は耐震性を高めるにはとても効果的なのですが、内部結露に関してはとても危険な面材ということになります。
耐震性が上がっても躯体が内部結露を起こして腐ってしまったのでは逆効果ですから、合板のように透湿抵抗の高い材料を用いる場合には注意が必要です。面材に合板を使う場合は必ず室内側に防湿層を施工することにしましょう。
また、面材に防風層を使えば、室内側に防湿層がなくても内部結露には安全だという結果(①)になりましたが、この判断は5地域以南の地域に限定するべきで、 寒冷地(.1.2.3地域)では防湿層は必要だと考えましょう。
外側に透湿抵抗の高いものをもつ場合には室内側も透湿抵抗を高くする。このバランスを見ることが内部結露防止の基本なのです。ちなみに、最近では合板の代用品として透湿抵抗の小さい構造用面材が開発され販売されています。大建工業の『ダイライト』や三菱商事建材の『モイス』やノダの『ハイベストウッド』ような製品です。
以上から、内部結露防止の原則は次のようになります。
・水蒸気的に外にいくほど開放
・内外透湿抵抗の比を守ること
・寒冷地では必ず室内側に防湿層をもつこと
・東京以西(5地域以西)では面材に合板を用いなければ室内側の防湿層はなくてもよいが、合板を用いる場合は室内側に防湿層をもつこと
調湿系断熱材の場合は?
さて、断熱材の中にはグラスウールやロックウールといった無機繊維系以外に、木質系のセルローズファイバーや羊毛断熱材のような天然系のものがあります。木質系や天然系は,調湿効果があることを特徴にしています。調湿とは吸湿と放湿の両機能をもつことで、周辺の湿度が高まれば吸湿し、周辺が乾燥してくれば放湿します。その間は材の中で保湿、保水しています。こうした材料の場合にはどんな状況になるのでしょうか。
調湿するのですから、室内の水蒸気を材の中でいったん吸湿して、また放湿するような感じがします。だったら室内側に防湿層をもたないで防風層で気密をとり、断熱材内で,調湿させれば内部結露は起こらないように考えられます。しかし、実際には水蒸気は断熱材内で吸湿されるだけでなく通過してしまうものもあります。したがって、グラスウールのような無機繊維系断熱材のケースと同様だと考えなければいけません。つまり、調湿系の断熱材を用いた場合でも前記の防露の原則を守る必要があります。また、調湿系断熱材だから面材に合板を用いてもよいということにはなりません。
調湿系断熱材にとっては少し残念な結果ですが、それでも調湿することのメリットはあります。何らかの異変があって内部結露した場合に、グラスウールの場合には結露は繊維間を広がっていき、断熱性を失ってさらに結露を助長したり、水滴となって土台に落ちることが考えられますが、調湿系断熱材はそれを保水し、そのうち放湿してくれる可能性があるのです。
高気密は安全性を高める
内部結露を防ぐためには内外の透湿抵抗の比を適切に設計することが必要だとわかりましたが、もう1つ重要な項目があります。それが気密化です。たとえ防湿層を張ったとしても、隙間があったのでは水蒸気は容易に侵入してしまいます。隙間からの水蒸気の侵入というのは半端なものではなく、カナダの住宅で1㎡の石膏ボードの壁に2cm×2cmの穴を開けると一冬に30 ℓもの水分が壁の中に侵入するというシミュレーションがあります。穴がなければ1/3 ℓしか入らないというのですから、穴があるとないとで100倍も違うということになります。
外側の防風層も気密でなければ冷気が断熱材の中に侵入してしまうし、防水の面でも大きく作用します。気密が高ければ通気層部分の気圧は高まって雨水の浸入を防ぎますが、隙間があると室内側に引き込む圧力が働くため、雨漏りを誘うことになります。
断熱構造では防湿層、防風層ともに高い気密性が求められるのです。換気と同様、ここでも気密を高めれば高めるほど安全という原則があったのです。
ただ5地域以西で防湿層なしのケースでは高い気密性を期待することはできません。それでも寒冷地と違って、石膏ボードをきちんと張る程度の気密性でも大丈夫だという判断になります。この程度で隙間相当面積は約5cm/㎡になります。この場合でも通気層に面した防風層の気密化はしっかりとるべきです。
でも、このケースで面材が合板だったとすれば、合板で気密をとれば透湿抵抗のバランスはますます狂います。防風層の場合は透湿抵抗がほとんどないので気密化しても透湿しますが、合板の場合は気密化すればするほど透湿抵抗が高まりますから、内部の危険性が高まってしまうのです。この意味でも、面材に合板を使った場合は防湿層施工が必要だということになるのです。
構造別・内部結露対策
RC造
コンクリートは蓄熱性があって、暖まりにくく冷えにくい性質があります。湿気の面では水蒸気を通しにくく、しかも少し吸湿、保水することができます。
コンクリート造の断熱には内断熱と外断熱があります。内断熱の場合は断熱材が室内側にあるのでコンクリートは冷えています。そこに断熱材の中を透過した水蒸気がぶつかれば、コンクリートは水蒸気を堰き止めてしまうので、水蒸気は冷やされて結露します。でも、結露したとしてもコンクリートは多少の水を含んでいられるので、すぐに湿害に至るとはいえません。ただし、水を含む量(含水率といいます)が高くなると、カビが繁殖する危険が出てくるし、コンクリートを中性化して弱くさせたり、鉄筋を錆びさせたりする原因になります。
以上のケースでは水蒸気が断熱材の中を透過したことを想定していますが、断熱材とコンクリートの間に隙間があった場合には、ダイレクトに水蒸気はコンクリートまでいってしまいます。この場合も同じようにコンクリート面で結露します。
さて、外断熱の場合には状況が違ってきます。
断熱材がコンクリートの外側にありますから、コンクリートは暖まっていて、断熱材とコンクリートの接触面も暖まっています。コンクリートは透湿抵抗が高いので水蒸気が中に入るのを防ぎます。たとえ透過したとしても断熱材の裏面温度が高いので結露しません。断熱材とコンクリートの間に隙間ができて水蒸気がその中に入り込んでも、同様に断熱材の面が暖かいので結露しません。
内断熱ではコンクリートの透湿抵抗の高さが裏目に出ているのに対して、外断熱の場合は透湿抵抗の高さが有利に働きます。また、内断熱では断熱化がコンクリートを冷やしてマイナスに働くのに対して、外断熱では有利に働きます。
こうして見ると内断熱は内部結露を起こしやすく、外断熱はその解決策のように思えます。事実そのとおりで、外断熱のほうが結露の面では圧倒的に安全で、内断熱は危険性をもっているということになります。だからといって内断熱は必ず内部結露するとはいえません。コンクリートは蓄熱と透湿抵抗が高いという特徴で内断熱と外断熱とでまるで違った環境をつくります。そこにRC造の断熱の面白さがあります。
鉄骨造
コンクリートは蓄熱性と透湿抵抗をもつため、内断熱と外断熱とで大きな環境の違いを見せますが、木造や鉄骨造は蓄熱性がない分、内でも外でも変化は見せません。
ただ、鉄骨造は木のように断熱性がなく、また、熱を素早く伝えるので結露の点で神経質に扱わないといけません。
図のように充填断熱にした場合には、鉄骨が外壁に接触しているため冷えてしまいます。これを冷橋といいます。この冷えた鉄骨に室内の水蒸気が触れれば結露が起こります。ここまでは表面結露ですが、内部結露でも同じことが起こります。したがって、鉄骨造の場合は外張断熱にする必要があります。現在の省エネルギー基準では鉄骨造は外張断熱を基本にしています。 しかし、外張断熱しても、外壁を止めるビスが鉄骨まで貫通するような場合にはビスが冷橋になってビスの周辺に結露することが予想されます。ところが室内の熱が鉄骨を暖めているので、その熱がビスに伝わり、外の冷気よりも勝ってしまえば結露はしません。ビスを受ける鉄骨のボリュームと室内の熱量の勝負となります。ここでも防露の原則である熱を与えることが重要だとわかります。そして、熱を与えるということは、個別暖房で暖まったり冷えたりするのではダメで、いつも家全体の暖かさの中でほんのり暖まっていなければならないのです。
木造
木材はある程度断熱性があるので結露の点ではコンクリートや鉄骨のような難しさはなく、そのために断熱の位置に有利・不利は出にくいものです。それなのに結露のことで外断熱がよくて内断熱が危険だといっているのは言い過ぎかもしれません。。
充填断熱の場合には木部は外気(通気層)に触れていて冷やされますが、それでも結露するまでには至りません。外壁を止める釘が木材の中に打ち込まれても柱の中で保温されるので結露しません。木造ほど結露に対して安全な構造はないのです。また、外張断熱をすれば木部の外側に断熱層をつくるのでさらに結露に対しての安全性は高くなります。
外張断熱で内部結露を防ぐ
木造の内部結露を防ぐ対策としてこれまではすべて充填断熱のケースを見てきました。ここで外張断熱のケースを見てみましょう。
外張断熱は単純に安全
外張断熱は押出法ポリスチレンフォーム、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォームなどプラスチック系断熱材が使われるケースが多いのですが、これらプラ系断熱材は透湿抵抗が高いのが特徴です。こうした透湿抵抗の高い断熱ボードで外張りしますので、断熱材の中を水蒸気が透過するのはわずかで内部結露を起こすようなことはありません。水蒸気が流れて結露するようなことがあるとすれば、それは目地の隙間から流れるくらいのものです。したがって、外張断熱の場合は冬と夏で水蒸気の流れが変わろうともまるで無関係ということになります。
「なんだ、こんなに簡単で安全なものがあるのなら早く教えてくれたらよかったのに」と言われそうですね。たしかに外張断熱は簡単で安全です。だからといって充填断熱が危険なものというわけではありません。充填断熱にも内部結露対策をすれば内部結露は回避できます。
透湿系断熱材の外張断熱
そんな簡単で安全な外張断熱ですが、それは透湿抵抗が極端に高いプラ系断熱ボードを外張りしているからであって、外張断熱でもグラスウールやコルクのように透湿する断熱材を用いた場合は、充填断熱と同じく防湿・透湿の内外バランスをとらなければいけません。また、プラ系断熱ボードを用いたからといって、充填断熱する場合は気密に注意しなければなりません
外張断熱の壁の中に湿気は籠もらないのか
よく受ける質問で、「外張断熱の場合に壁の中に湿気が籠もってしまうのではないか」というのがあります。石膏ボードと化粧材で内装仕上げした中に水蒸気が入り込むので、その湿気が籠もってしまうと考えるのは当然です。でも、湿気というのは温度の低い部分で澱むことはあっても、温度が均等なところで籠もることはありません。外張断熱の壁の中は室内の温度と変わりません。したがって、湿気が籠もることはありません。また、これまで盛んに悪者にされてきた合板ですが、外張断熱の場合には防湿材として活躍します。以上のようなことから外張断熱のほうが、内部結露に対して圧倒的に安全だということになります。費用の面で割高にはなりますが、家づくりを検討している方にはお勧めしたい工法です。
まとめ
最近ではダブル断熱と言って、外断熱の壁の内側にも断熱材を入れて、外断熱と内断熱をミックスした断熱工法が横行しています。これは住宅の断熱性能を表す数値として、UA値というものがありますが、断熱材を厚くすればするほど数値が良くなるため、各メーカーが競って内側にも外側にも断熱材を入れて断熱を厚くする傾向になってきているためです。ダブル断熱にすると確かに多少暖かくなります。
しかし断熱材を厚くすると、価格が高くなります。そして、このUA値を良くするためのコストアップに対して、実際に室内で体感する暖かさが大きく変わるかというと難しいところです。
現実的には断熱以外でもお金をかけたいポイントはあるでしょう。広いウッドデッキを付けたい、グレードが上のキッチンを入れたい、自然素材を使いたい。断熱だけにそこまでお金をかけて良いかどうかというのが、考えるポイントです。それだけの金額を出す価値があるかは、その人の価値観次第です。単なる外断熱でも十分暖かく、充填断熱でも水蒸気が壁の中に入らないように十分な防露対策を講じ、気密性を高めれば快適に暮らすことができます。どの程度まで断熱が必要かは人によって違います。
以上、述べてきましたように壁の中の結露はカビやダニの原因になり、アトピーやアレルギーなど住む人の健康を奪います。また、腐朽菌は木材を腐らせ、家の耐久性を低下させます。
大切なことは、結露の起こらないきれいな空気の室内で、快適で健康に、そして長持ちする家に住むことです。自分たちにとって何が本当に大切か?優先順位をよく考える必要がありますね。