~ZEH住宅の矛盾~

2016年度より国は本格的にZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業)と称し、その家で消費するエネルギーを、その家で創るエネルギーで賄うことが出来る住宅に125万円の補助金を出す制度を始めました。(全ての家が125万円もらえるわけではありません)これ自体は、すばらしい制度であり私も大賛成です。

2022年度も補助金の最大は112万円として国のZEHの推進に向けた取り組みは継続されています。こちらも全ての家で最大金額をもらえるわけではないので注意してください。(2022年度は2022年4月1日~2023年3月31日までとします)

しかし、一般的には、どんなにすばらしい制度でも、最初は必ず欠点というものがあります。これはある意味致し方ないことなのかもしれません。最初から完璧というものは、あり得ないと考えるのが現実的であろうと思います。まずは一歩を踏み出すことが重要であるとの考え方は正解です。
それでも、家づくりに携わる人間として、今始まったばかりのこのZEHに対して、どうしても納得がいかないことがあります。大きく3つあります。計算方法壁体内結露気密性能の3つです。

断熱性能を上げるだけの方法は危険

消費エネルギーを減らすためには断熱性能を上げる。この考え方に矛盾はありません。その断熱性能をUA値(外皮平均熱還流率)で表します。ところがUA値の計算方法というのは、断熱材の熱伝導率(熱の伝わりにくさ)とその厚みで計算します。(ここでは外皮面積は除く)つまり、断熱材を厚くすればするほど数値は良くなります。しかし単純に壁の中に断熱材をギューギューに詰め込んで断熱性能を上げようとするやり方は、言うまでもなく壁体内結露発生の最大リスクになります。私たちは1980年頃に北海道で起きたナミダタケ事件を忘れてはいけません。

ナミダダケ事件とは

1970年代に起こったオイルショックを契機に、その当時も省エネが叫ばれ、断熱強化をしました。北海道では灯油消費量が多いため、グラスウールを壁や天井に詰め込む断熱方法で「高断熱住宅」とうたっていました。
しかし、断熱施工をした家は温かくならず新築からまもなく家の床下や基礎がくさっていました。その原因が「ナミダダケ」という木材を腐らせる菌を発生させる植物でした。
結果、激しい壁体内結露で家は腐り、ナミダタケという異様な植物を床下、壁内、小屋裏という見えないところに大量発生させました。今、省エネルギーのテキストには室内に防湿層を設置することで、壁体内結露の防止を指導しています。

ナミダダケが床下で繁殖している様子
ナミダダケ

しかし、この防湿層の設置は理論上は正解ですが、実際上は不正解です。住宅施工の実際の現場で完璧な防湿層など絶対に出来ません。水蒸気を室内から壁内や小屋裏や床下へ一滴も漏らさないなどは、今の住宅施工では出来ません。もし、万一にでもそれが出来たとしても、それこそペットボトルの中に住んでいるようなものです。不快極まりない家になることでしょう。

気密施工の必要性

もう一つは気密性能を計算上、一切問わないことです。断熱材をいくら厚く施工しようと、家が隙間だらけでは省エネにはなりません。断熱というのは気密があってこそなのです。高断熱・低気密住宅というものはあってはならないのです。高断熱・高気密が正しいのです。計算上の数値のみを追い、気密施工を怠っては本当の省エネにはなりません。また、高断熱・高気密であっても見えないところで結露を発生させるような家もあってはなりません。国は税金を使って125万円もの補助金を出すのであれば、これらの点を数値評価項目として、取り上げるべきではないかと思うのです。


また、住宅購入する方々にとっても、性能アップや申請費に125万円以上の費用負担が生じることもあるかと思います。ZEH住宅として採択されたからといって、手放しで喜んではいけません。上記で述べたようなことを自らが、住宅メーカー、工務店に確認する必要があることを忘れないでください。