~鳩~

2017年11月

 秋が深まり、冬を感じさせる日々が続いています。我が家の庭の寒椿も一つ一つと花を咲かせてきました。休日の朝、私の大好きなメジロが、そのわずか数枚しかない花びらに頭を突っ込み、蜜をついばんでいる姿は、毎年のことながら心を和ませてくれる癒しの風景です。そんな我が家の庭での出来事を今月は少し記したいと思います。とは言ってもそれは私自身の体験ではなく、すべて妻から聞いた話です。

 11月に入り、庭木の剪定に植木屋さんがやってきます。たまたまその日、私は休日で家にいました。妻が植木屋さんにこう言いました。「あのモミジの上の方に鳩が巣をつくっているから、そのあたりは鳩のために、あまり切らないで下さい」妻はこよなく樹木が愛する人ですから、私には意外な言葉でした。別に鳩のために庭木を植えたわけではないのですから、必要な剪定はすればいいので、その結果、鳩がどこかに飛んで行ったところで、糞も落ちなくなってそのほうが好都合ではないかと、私は思っていました。私は妻に聞きました。「お母さん(妻のこと)、鳩なんか気にせんと、木、切ってもろたら」と。   そして妻から聞きました。

「去年の秋、多分向かいの猫にくわえられたと思うんだけど、我が家にいた小鳩(ヒナ)が向の家からバタバタ飛んできて、うちの庭の鳩の巣のあるモミジの下にバタッと落ちて、うずくまっていたの」もう夕方で陽も落ちようとする少し前のことでした。そこで妻は思ったそうです。何とかモミジの木の上にある巣まで、このヒナを戻してやれないかと。自分は怖いし足も悪くてとても、はしごで戻してやることなんかできない。こんな時に高所作業車でも来てくれたら、巣に戻してあげることが出来るのにと思ったそうです。その時、奇跡が起きました。間をおかず本当に高所作業車が電柱工事のためにやってきたのです。妻はその工事の人たちに頼んだそうです。「このヒナをあのモミジの上の巣に戻してやってもらえませんか」すると高所作業車の人たちは快く応じてくれたそうです。妻は「きっと神様がよこしてくれたんだわ。だってこんな偶然あり得ないと思わない。お父さん」私もそう思います。そしてそのヒナは助かり、今年は親バトとなって、自分のヒナを育てています。でもその時、ヒナはもう1羽いたのでした。高所作業車が帰って行った後、庭の別の所に弱り切ったヒナが1羽いたのでした。妻は暗くなりかけていたこもあり気付かなかったそうです。もう、高所作業車はいません。私は仕事でいません。 次の日の朝、死んでいたそうです。

 あの猫にくわえられ、そこから逃げ、必死に我が家まで飛んできて、偶然やってきた高所作業車の人たちに助けてもらった鳩は、今必死に子育てしているそうです。親となった鳩は1日2~3回、小鳩に餌を与えにやってくるそうです。それも自分が食べたものを吐き出して口移しにヒナにやるのです。地面の上でです。ヒナは親鳩の口にくちばしを突っ込み必死に食べています。ヒナが食べ終わると親鳩はまた餌を求めて、どこかへ飛んでいきます。親鳩が餌を与えにやってくるとき以外は、ヒナはいつも一人ぼっちです。最初は2羽いたそうです。それがいつも間にか1羽になっていたのです。妻はまた猫に襲われないかといつも心配しています。そしてこう言います。「親鳩の懸命の子育て、親鳩を信じて、じっと待っている小鳩、そのいじらしさ。その親子の愛情に感動するの。それと自然界で生き残ることの厳しさもね」

人間以外の自然界の生き物は、生き残るため必死に生きます。人間のように明日を思い煩うこともなく、ただ生きていくために一瞬一瞬を精一杯生きています。動物も虫も木も花も、みんな真剣に生きています。人間だけどうしてそうならないのか、今もよくわかりません。

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