~那智勝浦~

結婚33周年記念というのはあまり聞いたことがありませんが、それでも結婚記念日旅行ということにして妻と二人、南紀勝浦に行ってきました。和歌山県は白浜の少し南にある椿という所までは行ったことがあります。しかし、それよりも南には行ったことはありません。串本も太地も紀伊勝浦も初めてです。特急くろしおの車窓からは太平洋に面した見慣れぬ海岸の風景が次々と現れてきます。例によってウィスキーをチビチビと飲みながら、流れていく風光を観ることのできる自分に、酔いと幸福感がこの日の太平洋の波のように静かに押し寄せてきます。いつのまにか、生まれてから今日の日までに自分に起こった数々の一つ一つの出来事をぼんやりと思いおこしていました。すると、ひとつひとつ別々に起こった出来事ですが、本当は、なにかすべては一つの線でつながっているのではないのかなあ、という気持ちが湧き起ってきました。ひょっとすると、一つの線は自分が知らないある目的、ある行き先に向かって、少しずつですが進んでいっているのではないか、それは真っ直ぐな一直線ではなく、曲がりくねった線であっても確実に一つの線でつながっているのだ、と感じました。酔いがそうさせたのか、それとも何か大きな力がはたらいたのか。

紀伊勝浦駅から観光桟橋まで10分ほど歩き、そこから船で目的のホテル中之島まで約5分。船でホテルに行くのも初めての経験でした。観光桟橋は浮き桟橋です。妻の実家の呉市斎島に渡る豊島の桟橋を思い出します。5月の陽光に彩られた淡い緑の海に目を落とすと、小さな魚たちがよちよちと泳ぎ回っています。あぁ~旅をしているんだなぁと、またまた幸せがやってきます。

温泉旅館のだいご味は何と言っても、お風呂と食事と部屋からの眺めです。露天風呂からの眺めは最高です。西の方向に海を挟んで、南紀の明るい濃い緑の樹木たちを、これでもかというくらいに空と海の間に見せつけています。美しいの一言です。ただ、一つ残念だったのは、恐らく外国人なのでしょう。水着をつけて湯船に浸かっている姿を見るのは、やはり古い日本人として複雑な気持ちにならざるを得ません。これも時代なのでしょう。

食事が始まります。思いもよらぬ部屋食です。私たち夫婦はどちらかというと外の食事処で食べるほうが好きですが、文句を言ってはいけません。有難いことと受け取ることにしました。妻が言います。

「お父さん、お風呂に水着を着て入っているのよ。なんだか、がっかりしちゃうわねえ。でも外国人だから、しょうがないのかしらねえ。ホテルも注意しないのかしら」

私「その人はビキニ?それとも普通の?」

ここでまたまた、私はアスペルガーを発揮してしまいました。それでも妻は怒ることなく

「普通のよ」と一言。

 翌日もいい天気です。定期観光バスに乗って世界遺産、熊野古道大門坂へ、そして那智の滝へ。

バスの乗客は全部で8人。私たち夫婦がどうやら最高齢みたいです。熊野古道も那智の滝も階段だらけで、おまけに時間もなし。脚の悪い妻はとうとう青岸渡寺と那智大社は階段の下でお参りを断念することになりました。かわいそうなことをしました。私一人で四百段近い階段をのぼり、観音様と那智大社の神様に妻の病気が良くなるようにお願いしてきました。お参りを終え下まで降りて妻を捜します。バスの駐車場から少し離れたところで妻と合流。お店に入って妻の好物のソフトクリームを注文すると妻は上機嫌に。私「脚はどう?痛くない?」妻「休んだから大丈夫」観音様へのお願いが早速通じたようです。観音様、有難うございました。感謝いたします。