~矛盾と理不尽~

2021年2月

 今年の冬は年末年始の大寒波に始まり、とても寒い冬です。年のせいか寒さが堪えるようになってきました。そこで排気が外に出てCO2を室内に出さないFF式輻射熱ガスストーブを設置しました。カタログには大きく輻射式と書いてあったのですが、実際には若干ですが温風も出ていました。(ガスファンヒーターとは比べようもないくらいのわずかの風です)私は別に大して気にもなりません。予想通り以前の開放型ガスストーブでは室内のCO2が3500㏙~4000㏙にもなっていましたが、それが一気に1000㏙未満になったのでどちらかと言えば大満足です。しかし妻は「目が乾く」と言い出し、不機嫌になりました。

 その日のことです。めずらしく私は妻より先に2階の寝室に上がりました。我が家ではほとんど妻が先に寝ます。私はというと恥ずかしながら晩酌が過ぎて、炬燵で寝てしまっていることが多いのが実情です。そして先に2階に上がる妻はいつも私の寝室の電気ストーブを点けてくれています。その日は特別、寒いということもなく、また妻の節約家を知っている私は妻の部屋の電気ストーブのスイッチを良かれと思って、あえて入れませんでした。次の日の夕飯時に妻は言いました。「お父さん(私のこと)って勝手な人ね。自分さえよければそれでいいのね」私「えっ、なんのこと?」妻「私の部屋の電気ストーブ、点けてくれてなかったじゃないの。おかげで寒くて、なかなか寝付けなかったわ・・・・」私「・・・・・・」良いか悪いかは別にして、妻の口撃には抵抗しないのが今の私のやり方です。結果、気まずい雰囲気に包まれた夕食となりました。

 およそ世の中のことは思い通りにならないものと、ある程度は達観していますが、時々、ひどい理不尽な目に合うことがあります。それでも自分に全く非がないと言えば、そんなことはありません。必ず何らかの原因を自らが作っていることを知っています。ですから、まずは自分を謙虚に見つめ、反省すべきことは反省し言動を改めるようには意識しています。しかし、これは全くといって不完全で決して完璧には出来ません。人間は矛盾の塊です。言うこととやっていることが一致しません。社員に「この体は天から与えられたもので、決して粗末に扱ってはいけない。食いたいだけ食べ、飲みたいだけ飲む、このような生き方は絶対にしてはいけない」と説教しながら、私はというと多少の遠慮はしながらも、そこそこ飲みたいだけ飲んでいるのが、情けないですが実態です。自分でも嫌になります。

 仏教学者の鈴木大拙先生はこう言っています。「人間の世界と言ってもよし、人間の性質と言っても何と言ってもよいのですが、どうも矛盾がある。(中略)この衝突というか、矛盾というか、こういうことが人生なんだ。人生とか人間性というものが矛盾しているというよりも、矛盾そのことが人間性であるのだ。矛盾そのことがこの世の姿である・・・」

この言葉で、矛盾している私は少し慰めて頂き、世の中の理不尽に対する怒りを、妙に静かにさせてもらいました。ちょっとだけ救われたような気がします。

 庭の沈丁花がほのかに匂い始めました。得も言われぬ、この世のものではない、遠い別の世界か、真理の世界からの香りと思います。春はもうそこまでやってきています。